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原題 Shadows of the Workhouse
著者 Jennifer Worth
分野 文学/歴史
出版社 Orion
出版日 2008/6/26
ISBN 978-0297853268
本文 舞台はイギリス。今から80年ばかり前、貧しい人々は、有無を言わせずワークハウスという収容施設に送られていた。家族は引き裂かれ、皆、与えられた僅かな食料で、夢も希望も持てずに劣悪な環境下で働かされた。1930年、ワークハウスは公的には廃止となった。しかし実際には、その数十年後まで多くのワークハウスが存在していた。

イーストエンドで修道女たちと共に働く助産師の著者は、ここに住む多くの人たちが、今も尚ワークハウスでの暗い過去に翻弄され続けているのを見る。本書には、当時の著者が見た現実の人々が描かれている。幼い頃に両親を亡くし、極貧ゆえに引き裂かれた兄妹フランクとペギー。残酷な仕打ちで精神を病んでしまう陽気な少女ジェーン。2つの世界大戦で家族を失った退役軍人のコレット氏。ワークハウスに送られたそれぞれの運命には、心打たれるものがある。

一方、本書には希望とユーモアもしっかり描かれている。シスター・ジュリエンヌが男女の仲を取り持つ様子は微笑ましいし、老齢のシスター・モニカ・ジョアンが大変な事件を引き起こして裁判にかけられたりと、神に仕える身でありながら、生身の人間でもある彼女たちの日常も満載だ。

暗い時代の悲劇を乗り越えた人間の強さは輝きを放っている。くじけず前を向いて進もうとする魂と、どんなことがあっても自らの未来を切り開いていこうとする勇気が本書には満ち溢れている。絶賛された『Call the Midwife』の感動の続編!