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原題 Farewell to the East End
著者 Jennifer Worth
分野 文学/歴史
出版社 Orion
出版日 2009/4/16
ISBN 978-0297844655
本文 1950年代のロンドン、イーストエンド。そこでは多くの家族がひしめきあい、互いに助け合いながら、生活感あふれる日々を送っていた。子どもたちは被爆地域を遊び場にして楽しそうにはしゃぎ、社交クラブやパブが町の活気の中心となっていた。しかし戦後の貧困ゆえに、多くの家族が、生きていくことに必死だった。

本書はイーストエンドで修道女たちと共に働く助産師の著者が、この町の住人たちを描いた3部作の最後にあたる。結核がある一家にもたらした悲劇や、貧困と社会からの重圧で極限の状態に追い込まれた母親たちの姿、夫を共有している双子の話、聖職者にあこがれ婚期を逃したチャミーの結婚式など、本作にも生と死の間でおこるイーストエンドの人々の喜怒哀楽が、たくさん詰まっている。

1960年代の幕開けと共に、イーストエンドを見る影もないほどすっかり変えてしまうような壮大な再建築計画と、長屋家屋、波止場地域の破壊が始まった。今はもう存在しないコミュニティーの本質を色鮮やかに再現した、本書を含む3部作は、社会史を知る上でも貴重な書となるにちがいない。