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原題 Les Enfants Sauvés: Huit Histoires De Survie
著者 Philippe Thirault
ページ数 72ページ
分野 マンガ(ノンフィクション)
出版社 Delcourt
出版日 2008/11/5
ISBN 978-2756015767
本文 本書は、第二次世界大戦中、ナチスによるユダヤ人迫害のさなか、身を隠して命拾いした子供たち8人の実話をマンガ化したものである。

ホロコーストといえば、収容所体験がもっとも悲惨なものとして語られることが多い。自らもアウシュヴィッツ収容所の生き残りである政治家シモーヌ・ヴェイユは、この本に寄せた序文の中で、かくも筆舌に尽くしがたいテーマのマンガ化に、当初少なからず抵抗を覚えたと率直に述べた後で、内容的、視覚的な質の高さを保ちながら書Sに次世代へのメッセージが込められていると断言する。さらに、このような記録を残すという営為について高く評価している。

親戚、里親、あるいは見ず知らずの他人にかくまわれて救われた子供たちは、強制収容所という極限状態こそ免れたものの、常に恐怖と隣り合わせの生活を送った。逃亡の際、名前を変えたことを親に教えられても実感がなく、ドイツ兵に新しい名前を呼ばれて出ていかなかったために、ユダヤ人だと見破られるという悪夢にさいなまれた子供、窮屈な隠れ家さえ追い出されて山野をさまよった子供がいた。

8人の物語はそれぞれ異なるマンガ家が描いているので、絵のタッチも異なっている。中でも印象に残るのは、第5話の母との逃亡生活の末、ドイツ兵に捕まって収容され、母が銃殺されるのを目撃した女の子の話だ。この物語の絵には、色彩がない。母親が目の前で殺されるという経験をした子供の心の世界を、黒から白にいたるまでの明暗でのみ描くことによって、秀逸な効果を上げている。

命を救われた8人の子供たちは、無事大人に成長し、今も世界のどこかで生きている。過去の歴史の忘却に抵抗し、現代の子供たちに、民族や宗教の違いはあっても人はみな平等であることを教えるための貴重な一冊。

*フランス著作権事務所様で扱っている案件です。
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