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原題 An Unexpected Life: A Mother and Son’s Story of Love, Determination, Autism, and Art
著者 Debra Chwast, Seth Chwast(絵)
分野 文学/回想録
出版社 Sterling
出版日 2011/9/6刊行予定
ISBN 978-1402774036
本文 ある日「自閉症」と診断された息子、セス。誰よりも純粋で、フレンドリーで、才能にあふれ、面白いセスの行く手を「自閉症」という病気ごときに邪魔させはしない。母親である著者は、どんなことをしてもセスに人並みの、いや、人並み以上に輝かしく安心できる人生を見つけ出してみせると心に誓う。

著者は24時間息子に寄り添い、ありとあらゆるセラピーを試すが、長年にわたる言語セラピーにもかかわらず症状には改善が見られなかった。しかし、絶望しかけたある日、ついに奇跡がおこる。20歳になったセスが絵画教室に参加したところ、彼の芸術家としての才能が開花したのである。セスの絵には彼のユニークな世界観がカラフルな色合いで描かれている。人と会話を交わすことができないセスは、絵という彼なりの「言葉」を手に入れたのだ。

アウトサイダーアートの芸術家として成功への一歩を踏み出したセスだが、彼が「自閉症」患者であるという事実は変わらない。1人で通りをわたれない、時間の観念も持たない、体が受け付けない食べ物が多くあるため、1人で食事させることすらできない……彼ら親子が20年以上にわたって耐えてきた苦難はいまだに続いている。それでもセスは、絶望的な状況にありながらも社会的な成功を収めた成功者の象徴となった。

この本は、ただの回想録ではない。自閉症をはじめとする難しい病気に苦しむ子供を持つ親たちや、病気でなくとも困難な状況にある人々にとっての希望とインスピレーションに満ち溢れている。そして、ふんだんに収められているセスのアート。独創的でカラフルで、見ているだけで楽しい気持ちになる。この美しい作品たちが、モップかけの清掃人程度の職にしか就ける可能性はないと宣告された少年の中からあふれ出てきたことを思うと、人が持つ可能性に息をのむ思いがする。