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原題 Poverty and Power: The problem of Structural Inequality
著者 Edward Royce
分野 マクロ経済学
出版社 Rowman & Littlefield Publishers
出版日 2009/1/30
ISBN 978-0742564435
本文 アメリカの国勢調査局によると2005年時点での貧困者数は約3700万人、全国民の12.6%に上る。また、「貧困」に分類される人々の所得設定が低いため、実際はさらに多くの貧困層が存在する。国は貧困の問題を完全に無視し、政治の議題にもならないが、この問題は一般に考えられているよりずっと深刻だ。貧困の問題は個人の能力、資質の問題だとされているが、著者はこれに異を唱える。貧困は収入、財産、権力の格差に深く根差している。収入、財産、権力が一握りの権力者に分配され、貧困層はいくら努力しても公平な分配に与れない社会が構築されているのだ。著者は社会の構造的観点から貧困の実態を明らかにし、政治的社会的解決の重要性を解く。

本書はアメリカの貧困問題を取り扱っているが、日本の状況も同じか、もっとひどいかもしれない。厚生労働省が公表した2010年の国民生活基礎調査によると、日本の相対的貧困率(可処分所得が全国民の可処分所得の中央値の半分に満たない国民の割合)は16.0%(2009年)と非常に高い。にもかかわらず、貧困を個人の資質に帰し、見えないものとして扱っている点で、アメリカとよく似通っている。これからの日本を背負って立つ学生はもちろん、権力を持ち、意思決定権のある人々にもぜひ読んでほしい一冊。