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原題 A Diamond in the Desert: Behind the Scenes in the World’s Richest City
著者 Jo Tatchell
ページ数 304ページ
分野 社会・歴史・中東
出版社 Sceptre
出版日 2009/10/1
ISBN 978-0340953396
本文 アラブ首長国連邦(UAE)は、1971年に7つの首長国が集まって独立した。連邦の首都アブダビは砂漠の中の貧しい町であったが、わずか40年足らずの間に、オイルマネーを背景にすさまじい経済発展を遂げ、世界で有数の豊かな国となった。著者はグッゲンハイムやルーブル美術館、F1コースの建設という大規模プロジェクトがニュースで大きく取り上げられるのを見て、そのニュースの背後に潜むものを調べ、それらのプロジェクトの実現可能性を探ろうと、2008年アブダビを訪れる。

本書では高層ビルや高級ショッピングセンターが林立する現在のアブダビと、厚意、勇気、名誉、独立心を重んじるベドウィンが暮らしていた過去とが比較されている。1974年から1980年代の初めまでの子供時代をアブダビで過ごした著者は、自分の友人、シャイフ(首長、長老、王族)、インド人移民、主婦、外国人居住者まで、そこに住むさまざまな人々にインタビューを行い、彼らの目を通してこの都市の過去と現在を掘り起こす。ラクダとテントをスポーツカーとコンドミニアムに替えて怠惰な生活を送る大富豪たち。劣悪な環境に置かれている外国人労働者。実際には、アブダビの人口の80%を占めるこの外国人労働者がこの都市を機能させている現実。犯罪や事故の隠蔽、表現の自由の規制。この都市が突然巨万の富を手にしたことで、社会と文化が危うく道を外れる危機にあることを明らかにする。

反面、一条の光もある。統治者の中には、アブダビはイスラム世界と西側諸国の文化の架け橋としての役割を担うようになるという展望を持っている人たちがいる。この小さな国が生き延びるための力を、世界の文化の中心となることに求め、その一環として美術館や大学を誘致しているのだと。成功すれば世界を変えてしまうかもしれない壮大な計画だ。アブダビは再び変わろうとしているのかもしれない。

謎の多い、蜃気楼のようなこの街についての情報はまだまだ少ない。本書は、アブダビの光も影もありのままに描き出した貴重な一冊といえるだろう。