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原題 The Minoans: Lost Civilizations
著者 Ellen Adams
ページ数 208
分野 考古学、文化人類学
出版社 Reaktion Books
出版日 2025/06/01
ISBN 978-1836390473
本文 インダス文明やマヤ文明など古代の文明を探求する「失われた文明」シリーズの17冊目となる本書は、地中海に位置する島、クレタ島にかつて発展したミノア文明がどのように発見されたか、当時の人々はどのような生活をしていたのか、また現代の私達にとってどのようなつながりがあるのかを含め、広い視点で書かれている。

一般的には紀元前2000年頃に地中海交易で栄えた文明として知られているミノア文明であるが、局所的に詳細かつ体系的に解説されることはあまりない。
ミノア文明とはどこから発生し、発展を遂げ、内的・外的関係を保っていたのか、クノッソス遺跡をはじめとした宮殿は当時どういった役割を果たしたのか、また発掘された聖刻文字や線文字Aをはじめとする文字やフレスコ画、壺の装飾などから推測できる当時の暮らしや儀式、貿易の痕跡など11のテーマを紹介し、ミノア文明を紐解く。

本書は、読者の先入観を覆す洞察が散りばめられていて、単なるミノア文明を紹介する本として終わらない。たとえば、クノッソス遺跡発掘の第一人者として知られるイギリスの考古学者アーサー・エヴァンズの唱える説の一部と現実との乖離点や彼の発掘品の中に偽造品が含まれている可能性を示唆している点等、ミノア文明がどのように発見後に西洋文化の中で構築されてきたか批判を混ぜながら掘り下げている。

ヨーロッパ最古の文明として数多くの発掘が行われているミノア文明には、これまで発掘された遺跡からはいまだ未解明の謎も数多くある。
考古学的な知見から推測できる文化と、未解明の線文字Aや絵画の分析の結果を通じても「個人」のストーリーが浮かび上がってこないのである。
ミノア文明においては埋葬の習慣が見受けられず、エジプトのピラミッドのような建造物はもちろん、特定の人物を称える像といったものも発見されていない。逆にフレスコ画に多く描かれているのは不特定の女性たちであり、女性の社会的立場についても様々な見方がされている。

章を追い多面的な分析を行なうごとに再び登場する前半部分で紹介された発掘品や、過去に発掘された遺跡の紹介のみならず、コロナ禍を乗り越えた現代の世界におけるミノア文明の影響に関して紹介されている点も、われわれ現代人の知の欲求を刺激する。