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原題 Cerebral Entanglements
著者 Allan J. Hamilton (Author)
ページ数 368
分野 脳神経科学
出版社 DROPCAP
出版日 2025/02/11
ISBN 979-8888459485
本文 脳の形態と機能の結合を数多く経験してきた現役脳外科医による本書は、脳に関する他の書籍とは異なり、私たちの生活における親密で重要な感情に焦点を当て、神経画像研究が著しく進歩した昨今、重要な感情やメンタルヘルス問題をどのように変えられるのかを論じている。

意識、愛情、信頼、恋愛、共感、友情、偏見、悲しみ、幸福感、うつ状態やいらいらの本質、笑いの本質に着目し、脳の画像検査や機能研究のなかで判明してきた驚きの新事実をとりあげながら、こういった感情を神経科学の観点からはどう解釈できるのか。私たちは、ヒトの思考の概略をつかみ、感情の過程をたどり、記憶がまとまる様子までを目の当たりにすることができる最初の世代であると言えるだろう。

例えば、霊長類においては、脳の視床下部で作られ、血中に放出される、オキシトシンという神経伝達物質のひとつが重要になる。何げない会話のなかでも、相手に優しさをもって対話すると、自身の体内のオキシトシンレベルが上がるとともに、相手のオキシトシンレベルも上がり、さらなる上昇スパイラルが生じる。この結果、人間関係が良好になる。
歴史のなかでは、特定の人種に対する大虐殺が不幸にも繰り返されてきたが、そのような決断をするに至った支配者の脳内では、逆に共感回路が断たれた状態であるということが脳の画像検査によっても確認されている。

本書は、私たちの感情や経験を動かす複雑な科学の話も、明快でわかりやすく書かれており、新たな知識が、私たち一人一人、さらには社会全体の幸せにどう影響するのかが示されている。また、幸福感、笑い、ストレスやPTSD(心的外傷後ストレス障害)について論じながら、脳はどのように音楽、記憶や時間を知覚し、経験するのかについても語られる。日常生活のなかでふと感じる疑問を脳研究と結びつけて考えさせてくれ、日常での感情と研究を行き交うように説明してくれる一冊だ。