原題 | The Idea of Waste |
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著者 | John Scanlan (Author) |
ページ数 | 256 |
分野 | 環境、社会、文化人類学 |
出版社 | Reaktion Books |
出版日 | 2025/03/24 |
ISBN | 978-1836390343 |
本文 | 著者は、「人間社会は廃棄物(”waste”)を避けて通れない」という前提に立ち、ゴミについて文化や歴史、社会的な側面から考察してきた。そして本書は、人間が生み出す廃棄物の性質や廃棄物の処理・管理、活用の方法がどのように変わってきたのかについて、政治や文学、産業、歴史、建築、映画や小説、写真、アート作品などの様々な視点から論じられている。 たとえば、地下の下水システムは紀元前のローマ帝国時代にすでに存在し、19世紀にはロンドンやパリの下水道が建設されるなど、人間は地下に廃棄物を流すシステムを作ってきた。地下空間の整備には、人々の「見えなければ気にならない」という気持ちが働いているのも一因だと、著者は指摘する。グローバル化によって富裕国が発展途上国を廃棄物処理場として利用したのも、同じ考え方に基づいている。 本書では、公共インフラやグローバル化だけでなく、個人の住宅事情や生活様式、消費行動の変化も、廃棄物の性質や廃棄物に抱く人々の考え方、そして管理・処理方法に影響してきた要因だと考察する。使い捨て社会は、人と物との関係への劇的な変化をもたらし、20世紀後半には、増加した廃棄物を新しいリゾート地の建設材料として活用する手法が広まった。 1960年代から70年代前半には、環境やエコロジーといった概念がその後の政治情勢を形成する問題を浮き彫りにした。1980年代後半には「グリーン・コンシューマリズム」、2000年代には「ゼロ・ウェイスト」という概念が生まれるなど、政治や人々の生活様式の変化にともない、廃棄物だけでなく物全般への人の向き合い方が変化した。 現在、下水道だけでなく地中深くには核廃棄物も埋設されている。地下空間には通信インフラも整備され、クラウドサーバーに蓄積された「データ廃棄物」も管理されている。私たちが表明する好みや思考なども、今や他人が利用でき、リサイクルされる新たな形の廃棄物である。 著者によれば、「廃棄物」だけではなく時間の浪費(英語では「廃棄物」も「浪費」も”waste”)や廃墟、荒れ地などの無駄を減らし有効活用してきたことも、廃棄物との取り組みに通じるという。 本書を読むと、廃棄物を通して古代ローマから現在まで、そして政治から文化、環境・社会問題までと、時代や領域を超えた多様な問題を知ることができる。さらに、私たち一人一人の、これからのモノとの向き合い方や社会とのつながり方についても考えさせてくれるだろう。 |