ブックレビュー ブックレビュー

原題 Doc or Quack
著者 Sander L. Gilman (Author)
ページ数 320
分野 医学、政治
出版社 Reaktion Books
出版日 2025/04/01
ISBN 9781836390152
本文 新型コロナウイルスのパンデミックの最中、その予防や治療に関する重大な政策決定に当たって、多くの政府や公衆衛生機関が「Follow the Science(「科学」に従う)」という言葉を使用した。その中で科学の曖昧さが露呈していき、「科学」そのものが論争の的となった。「科学的医学」と「ニセ医学」との間に不動の境界線は存在するのか。本書は、19世紀の科学的医学の黎明期から現代に至るまで、その境界線が歴史の中でどのように揺れ動いてきたのかを、多くの事例を通じて明らかにする。

かつて「医学」とされていたものが後に「ニセ医学」とされる場合もあれば、その逆もある。例えば、手洗いなどの消毒法の先駆者ゼンメルワイスは、消毒法を提唱した当時、医学界から酷評され、同業者たちに「ニセ医者」と呼ばれた挙句、精神病院に送られ、そこで職員に暴行され死亡した。しかし、彼の業績は死後に高く評価され、現在では「感染予防の父」と称されている。一方、ノーベル生理学・医学賞を受賞した者の中には、現代では「ニセ医者」と見なされている者もいる。また、ナチス政権下では、優生学に基づき医師たちが強制収容所で「選別」を行ったが、彼らは皆「科学に従った」のである。

本書は、科学的医学とは何かが、場所や時代、教育や免許制度、研究方法やエビデンスの種類、専門家や大衆からの信頼や不信など、さまざまな要因によって決定されることを示している。また、人種や民族の違いに関する思い込みが、科学的妥当性や医師の権威の評価とどのように絡み合ってきたかについても明らかにする。

科学は不変の絶対的なものではなく、常に変化し続けるものであり、「科学に従う」という主張は想像以上に複雑な意味を持つのだ。