ブックレビュー ブックレビュー

原題 Readers for Life
著者 Sander L. Gilman and Heta Pyrhönen
ページ数 254
分野 文学、エッセイ、心理学
出版社 Reaktion Books
出版日 2024/09/16
ISBN 978-1789149494
本文 本が読まれなくなった、と言われるようになって久しい。現代は、細切れのテキストにあふれており、人びとに、長い文章を読む集中力がなくなっているように見える。だが、そもそも“読む”とはどういうことだろう? 編者のサンダー・ギルマンとヘタ・ピルホーネンは、序文でまず、“読む”には何が必要か、読み聞かせは読書能力の習得にどう影響するのか、発達段階に応じてどう読書スキルが変わっていくのか、読書習慣の定着に何が必要かなどを、時に精神分析学や言語学、文学論などの知見も交えながら考察する。

こうした考察に続き、著名な作家や文学者らの、幼少期から思春期までの読書体験が紹介される。体験記を寄せるのは、『悪魔の詩』が世界的な注目を集めた作家のサルマン・ラシュディ、文学研究者のマリア・タタール、コソボ出身の若手作家パイティム・スタトヴツィ、邦訳書も多い絵本作家のマイケル・ローゼンら13人(編者のピルホーネンも含む)だ。自らの読書体験を回想しつつ児童文学論や精神分析学にも踏み込む人、家族との思い出とともに子供時代の読書を語る人、自身の読書体験から、読書と身体性について考える人……。語られる体験談は様々だ。読者は、こうした体験を知ることで、読書がいかに個人の成長に大きな影響を与えるかに気づくだろう。そして同時に、自身の読書体験を豊かなものにするヒントも得るだろう。

本書は、読書とは何か、読書体験がどう個人を形作るかといった、読書に関する現代の議論に欠けがちな視点を提供しているが、ほかに“お薦め本リスト”として読むこともできる。本書で言及されている本には、『不思議の国のアリス』、『くまのプーさん』、『千夜一夜物語』、『宝島』、『ロビンソンクルーソー』といった、やや年少の子供向けの定番から、ブロンテ、オルコット、シェークスピア、ディケンズ、クリスティといった、年長の子供向けの作家の作品、さらには大人向けの作品までがあり、幅広い。子供にどんな本を薦めるか悩む保護者や、教師にとって参考になるだろう。また、精神分析学や心理学、文学理論などにも触れられているので、こうした分野に興味がある人にも薦められる。 

本書で紹介された本、かつて読んだことのある本、読もうと思ったが積読している本、これから新たに見つける本など、本書を読み終えた読者は、ともかく本を読まずにはいられなくなるはずだ。