原題 | Cosplay and the Dressing of Identity |
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著者 | Vivian Asimos |
ページ数 | 224 |
分野 | 文化人類学 |
出版社 | Reaktion Books |
出版日 | 2024/09/01 |
ISBN | 978-1789149661 |
本文 | 著者は人類学者であり、宗教や神話等を長年研究してきた人物である。特に社会と文化がどのように構築され、人々に影響を与えるのかというテーマの研究をしている。著者は大衆文化こそ現代の神話であると主張する。そして、大衆文化の一つである「コスプレ」を対象に研究を始めた。 大衆文化であるアニメや映画といったフィクションの世界を、まるでこの世界に実在するかのように自分の体を使って表現するのがコスプレだ。単に着飾るという行為とは異なり、コスチュームを着てプレイ(演技)をするのである。人はどうしてコスプレをするのだろうか。ストーリーを読んだ人がそのストーリーやキャラクターに共感し、そのキャラクターが見ている世界や価値観を表現するためだ。 著者はコスチュームの歴史など様々な視点から研究を重ね、みずからコスプレをして現地に取材に赴き、様々な人種、ジェンダー、体形や体の可動域が異なるコスプレイヤーにインタビューを実施した。複雑なコスプレの世界を紐解くため、コスプレをしている時としていない時の自分のあり方の差など、コスプレイヤーにさまざまな質問を投げかけた。 私たちの体、存在は一人ひとり違う。だから一人ひとりが違った経験をする。経験はその人の社会の見方に大きく影響を与える。コスプレをすることで、自分が社会から受け取った印象や、社会に対する理解をフィクションの世界を通じて表現できる。 コスプレイヤーとそのキャラクターは深く繋がっていることがある。ある人は鬱だった自分と同じように、鬱であるキャラクターに親近感を感じ、そのキャラクターを自分自身の体で表現しようとしたそうだ。このように、人間とキャラクターの深いつながりが垣間見れる。 コスプレはコスプレイヤーのアイデンティティにも影響を与える。アイデンティティは本当の自分が持っているものや、社会に強要されているものなど様々だ。人の行動ひとつ取っても、社会に強要されていることが多い。例えば学校の授業中の態度を例に挙げよう。コスプレをしているときの行動はそのキャラクターのものであり、自分のものでもある。自分とキャラクターが一体化している。コスプレとコスプレイヤーとの関係は非常に密接なのである。 著者は、大衆文化は私たちの考え方や感じ方、行動の仕方を表す現代の神話、民間伝承、伝説であると説く。フィクション作品は現代多くの人に愛される文化であり、それを自らの体を使って表現するコスプレも、その人が感じる社会や人生を表現する芸術の1つといえるだろう。 |