原題 | Moving Beyond Trauma |
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著者 | Ilene Smith |
ページ数 | 254 |
分野 | 精神医学/健康法 |
出版社 | Lioncrest Publishing |
出版日 | 2020/04/27 |
ISBN | 978-1544505992 |
本文 | トラウマというと、特別な体験による心の傷のように聞こえるが、実はほとんどの人が人生において知らないうちに一定のトラウマ体験をしている。そして、そのトラウマを記憶しているのは、我々の脳ではなく身体なのだ。トラウマの治療には従来からカウンセリングが用いられることが多いが、実はこれは逆効果で、療法士によるカウンセリングの結果、患者は癒されるどころか、トラウマを追体験させられることになってしまう。 著者自身も両親を亡くして恐怖と不安を抱えてしまった過去があり、その後15年間トラウマ心理療法の治療を受けた。その後、最愛の夫までも急死してしまった。そのときは、悲しみに暮れながらも、トラウマ心理療法で構築できていた心のもち方のおかげで、つらい感情に蓋をして逃げ出すのではなく、悲しみに向き合って対処し、同時に楽しいと感じる感情も受け入れながら乗り越えることができたという。 ケーススタディも豊富で具体的に記載されており、トラウマに悩んでいる読者は、自身の状態と比較しながらその分析を参考にすることができる。例えば、アルコール中毒の父と、うつ病の母のもとで育った30代女性は、起業家として成功を収めていたが、著者のもとへ相談に訪れたとき、すっかり凝り固まっていた。劣悪な家庭環境にあったことで、幼少期から過度に自立し、それを生き抜くすべとしていた。傍目には見事に富を手にし、順風満帆に見えたが、彼女の自律神経系は常に過活動状態にあった。状況に自然に身を任せることができず、反射的に身の周りに起こる全ての物事に反発していた。治療を通して、何でも自分でコントロールしようとしないこと、自身の感覚を信じることを学んだ。 効果的な治療を行うには、トラウマの種類を把握し、それに応じた治療をする必要がある。本書の後半では、自己診断できる設問とそのスコアに基づく診断結果が掲載されている。さらに診断結果のタイプに基づいて、自分で神経系を整えるための日常的にできる方法が紹介されている。本書を通して、自分自身が抱える痛みを知り、身近な人とより深くつながりながら生きていく方法を習得できる。 複雑な人間関係に酷く苦しんだり、配偶者に先立たれたり、予期せぬ自然災害で突然大切な人を失ったりする悲劇は誰にでも起こりうる。本書を読むことで心のメカニズムを理解し、心の回復力を鍛えておくことはトラウマを自覚していない人たちにも、転ばぬ先の杖として役立つだろう。わかりやすい言葉で優しく寄り添うような筆致で読者の心の健康をサポートしてくれるはずだ。 |