原題 | The Wagner Group: Inside Russia’s Mercenary Army |
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著者 | Jack Margolin |
ページ数 | 180 |
分野 | 政治/軍事/国際団体 |
出版社 | Reaktion Books |
出版日 | 2024/09/01 |
ISBN | 978-1789149579 |
本文 | ワグネル・グループ。 ロシアを本拠地とする傭兵軍団は、2014年、戦地での残虐行為の噂からその名が知られていく。当時ロシア政府との関係は秘されていたが、2022年のウクライナ侵攻以後、ワグネルの戦闘員のみならず勧誘を受けたロシアの受刑者たちが、政府の要請によって戦場に派遣されているという事実が公になった。本書は、民間の軍事会社という体裁を保ちながら、政府の準軍事組織としても機能していたワグネル・グループの栄枯盛衰の物語である。流出した内部文書、ジャーナリストや活動家へのインタビューなど多岐にわたるリサーチにより、ワグネルに携わる人々の闇の歴史を生々しく暴き出していく。 創設以来、ロシア政府の支援のもと、ワグネル・グループはアフリカや中東の発展途上地域において、既存の市場を覆し、競合者たちを押しのけて勢力を広げていった。 独裁勢力への武力の提供や軍事指導、また独裁政権継続の支援によって、天然資源の権利等、莫大な利益を得る。一方政府側は、公式には犠牲者の数に入らない使い捨ての戦闘員や、政府よりも迅速に安く戦争に介入できる民間組織に価値を見出した。国家の法律の外であることは、民間軍事会社とロシア政府双方に都合が良かったと考えられる。 しかしこの関係性は長くは続かない。プーチン大統領をも脅かすと囁かれるまでになっていたワグネル・グループは、結局のところロシアのために戦う政府の一部ではありえなかった。創設者の1人でありグループのトップであるエフゲニー・プリゴジンは、巨大な組織をコントロールすることに長け、戦闘員らの信頼を勝ち得ていたけれども、政府におもねることをしなかった。その結果、勢力を誇っていたワグネル・グループは、2023年プリコジンの政府への反逆と突然の死によってその幕を閉じることになる。 ワグネル・グループは事実上解体したが、司令官や戦闘員たちの多くは生き延び、他の組織へと移っていく。ロシアにはまだワグネル・グループの継承者となり得る組織が多数存在する。著者は、今こそこうした組織の世界的な役割をロシア政府との関係に学び、政治と戦争の在り方について問い直す必要がある、と読者に訴えかける。本書はワグネル・グループに関する紀録と考察であるが、近年のロシア情勢についての分りやすい入門書にもなると同時に、戦争や紛争をビジネスとする人々のドラマとしても読み応えのある一冊になっている。 |