原題 | The Medieval Scriptorium |
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著者 | Sara J. Charles |
ページ数 | 344 |
分野 | 西洋美術、西洋中世史、文献学、古文書学 |
出版社 | Reaktion Books |
出版日 | 2024/08/12 |
ISBN | 978-1789149166 |
本文 | 活版印刷技術が発明される以前、ヨーロッパ中世、カトリック教会で行われていた書籍の作製について、歴史から工房、デザイン、工程、素材に至るまで幅広い分野を網羅した研究・解説書。ローマ帝国下で広まったカトリック教会にとって、聖書をはじめ、法王や司教、修道士、神学者たちの説教や解釈、御触れなどを、様々な地域または後世に伝えるために、書籍にまとめる必要があった。ところが、印刷技術が開発される前、書籍をつくるためには、当然人が文字をひとつひとつ書き写さなければならなかった。 著者、サラ・チャールズは、「実際にSCRIPTRIUM(書写室)はどのようなものだったのか?」という問いを立て、ヨーロッパ中世の書籍作製現場を詳細に解説する。それは、240ページ分の羊皮紙をつくるために必要な動物の数や、ペンに使う羽を集めるのに好都合な時季、インクをオークの木の瘤から取る方法に始まり、文字を移す作業工程、装飾デザイン、飾りつけの素材にまで至る。 そのような幅広い分野について、56点の図版を含めて、詳細かつ具体的に説明されている。また、それぞれの章は、羊皮紙職人や書写する人、装飾人などの中世の人物による生き生きとした導入ではじまり、読者にとって親しみやすい構成をとっている。 本書を通して理解できることは、人類の最も貴重な財産である「知」が伝えられるために、どのくらいの計画性、ネットワーク、労力が必要だったかということだ。それはもちろん現代の情報社会にいる私たちからすると想像を絶するものである。しかし、簡単に情報を消費することになれてしまった私たちは、先人たちが「知」を伝えるためにどれだけのことをしてきたのかを知ることで、「知」の価値を見直すきっかけにすることができる。 最後に、図版はカラーのものが多数あり、本書の魅力を高めている。また、日本や東洋でも同様に写本による知の伝達が行われている。本書はヨーロッパにおける写本作製の研究になっているが、わが国での同様の研究への一助になり得ると思われる。 |