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原題 The Pirates' Code
著者 Rebecca Simon
ページ数 304
分野 歴史、組織論
出版社 Reaktion Books
出版日 2023/06/28
ISBN 978-1789147117
本文 海賊の「黄金時代」における海賊船での海上作戦と日常生活が包括的、かつ非常に魅力的な文章で書かれている。海賊に魅せられた著者は、海賊たちがどのように海上での生活を組織化していたか幅広いアーカイブ資料を用いて綿密に検証している。一方で、最も悪名高い海賊からあまり知られていない海賊まで網羅しており、海賊生活のあらゆる側面を詳細に描いている。
近代から現代にいたるまで、大海原を航海する海賊達は、その神秘的な部分と彼らにまつわるストーリーから、果てしないロマンの世界に生きる人物として言わば憧れに近い存在だった。子供向けの物語やバレエ曲のモチーフにも取り入れられ、近年は映画化されて、有名俳優が強烈な個性で主役を演じて人気を博し、人々はより海賊に対する興味を掻き立てられるようになった。
海の上のロビンフッド的存在にも見えるが、多くの文献から調べていくと、義賊であるという資料はあまりなく、彼らはやはり略奪で生計を立てていたようだ。ただ、貧しいものから略奪はしないというルールがあり、襲う船はもっぱら富裕層の所有するもので、彼らが植民地で手に入れた財宝、食物、嗜好品、を母国に持ち帰るところを襲撃していた。
陸の生活に嫌気がさしていたものたちが、自然発生的に海に集まるようになり、コミュニティができていった。メンバーは、ドロップアウトしたものから、豪族として生まれながら窮屈な生活に飽きてスリルを求めて海にやってきた者、司祭、発明家、医師、コック、修理工、会計士と多岐にわたり、いったん船に乗ると、そこでは身分の差はなくなった。コミュニティができるとそれをまとめるのにおのずとトップが必要となり、キャプテンが決められた。人望が厚く、判断も的確で、勇敢で行動力のあるものがキャプテンに選ばれ、彼らは港町で、植民地の輸送船の情報を収集するのだが、キャプテン達は情報収集力とコミュニケーション能力にたけ、また、情報が収集できるように部下を育てるのが得意だった。そして、天候の予測を立てる知識、衛生に関する知識も備えていた。
港町で情報を得た彼らは航海に出る。キャプテンは、何がどれくらい必要か予測を立て、船に積み込んだ。武器、食料、調理器具、薬剤、医療器具、衣類などが主な積み荷だった。船上では仕事は分業となっていて、その采配を揮うのはキャプテンと副キャプテン。給料は略奪したものを売りさばいた金から支払われ、コミュニティへの貢献度によって給料が決められ、それに不服を言うものはいなかった。ひとたび船に乗ると、彼らが戦う相手は、敵、天候、病気、飢餓などで、それらに一丸となって立ち向かうのだった。
リーダーシップと危機管理能力が優れたキャプテンのもと、航海する海賊船は比較的、嵐にも見舞われず、食料にことかくこともなく、病気の蔓延というリスクも少なかった。これはリーダーの手腕によるもので、こういったカリスマ性のあるキャプテンのもとには、船乗りたちも多く集まり、さらに豊かな海賊船となっていった。彼らは異国の地で物々交換して手に入れた珍しい果物や香辛料を使った料理を口にすることができた。
 海も穏やかで、比較的ゆったり航海しているときは、楽器の得意なものが楽器を奏で、歌(主にバラード)が歌われた。こうして、海賊文化といった一種独特の文化が栄えたが、やがて、イギリスが非合法である海賊船を厳しく取り締まるようになると、キャプテンたちは処罰を受け、この文化も衰退していく。こうして今では昔話のように語られる海賊の話ではあるが、文献を見ると、ある時期、組織化された多くの海賊のグループが実在していたことがわかる。彼らの生業は略奪で、それ自体は合法ではないものの、必ずしも残虐行為をしていたわけではなく、極めて紳士的な海賊もいたようだ。しかし、船上でのルールを破ると厳しく罰せられた。そのルールは彼らの身を守るために作られたものだった。