ブックレビュー ブックレビュー

原題 Marco Polo and His World
著者 Sharon Kinoshita
ページ数 216
分野 歴史・地理
出版社 Reaktion Books
出版日 2024/09/01
ISBN 978-1789149371
本文 マルコ・ポーロがルスティケロに口承して書きあげた『世界の記述(東方見聞録)』は、単なる冒険記ではない。原書を彼らの言葉を借りて『世界の記述』として見るとそこに示されるのは、マルコ・ポーロが訪れ、暮らしたであろう場所や、行政記録から見知ったこと、仕えていたモンゴル帝国の書物から見知ったことなど、当時の世界の「多様性」だ。マルコ・ポーロが同時代人を驚かせるような方法で語られたこの世界こそ、本書が命を吹きこもうとしているものだ。

モンゴルのアジア征服によって、ユーラシア大陸、太平洋、インド洋一帯で前例のない商業、接触、コミュニケーションが可能になった。1250年から1300年頃までのアジア世界を知るための窓として、本書は『世界の記述(東方見聞録)』を取り上げる。第1章では、バグダッド陥落(1258年)、ビザンチンによるコンスタンティノープルのレコンキスタ(1261年)、十字軍の都市アッコの陥落(1291年)といった世界史上の出来事が、地政学だけでなく、この特徴的な時代の商業や文化の形成にどのように役立ったかを探る。第2章では、マルコ・ポーロの目を通して見たフビライ(チンギス・ハーン)とその帝国の壮大さに焦点を当て『世界の記述(東方見聞録)』を検証する。第3章では、自然界の奇跡から、奇跡の物語、文化の珍奇に至るまで、中世の驚異への憧憬を『世界の記述』特有の形で再構築していることを検証する。第4章では、ユーラシア大陸を横断して取引された動物、植物、鉱物の産物に注目する。第5章は、本書で最も実験的な部分であり、マルコ・ポーロと同時代に生きた中国の画家で文学者の趙孟福、デリーの詩人アムール・フスラウ、ビザンチンの王女でペルシアのハトゥンであったマリア・パライオロギーナの3人の人物に焦点を当て、当時の世界の多様性と輝きを映し出し、その文化的豊かさを探求する。

本書で著者は、ヴェネツィア、ジェノヴァ、ピサ、カーンバリク(大都)、キンサイ、ザイトンに関する豊富な記述により、マルコ・ポーロの驚くべき冒険と、商人、冒険家、語り部としての生涯を、豊富なビジュアル資料とともに鮮やかに描く。中世の世界を様々な視点から見直すことができる、これまでにないグローバルヒストリーの手引きであり、冒険ノンフィクションだ。