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原題 The Barbarians
著者 Peter Bogucki
ページ数 224
分野 考古学・文化人類学
出版社 Reaktion Books
出版日 202/10/01
ISBN 978-1789149265
本文  表題となったBarbarian(s)(日本語訳:異邦人、異民族、未開人、野蛮人)という言葉は、古代ギリシャや古代ローマにおいて、「ギリシャ語やラテン語話者ではない異邦人」を指した単語を語源としている。そして長い歴史のなかで悪い意味合いが増長され、今ではすっかり「野蛮人」や「文化的に未開である人」といった、粗野で乱暴なイメージがまとわりつくようになった。
しかし、古代ギリシャ人や古代ローマ人からBarbariansと称された人々は、はたして本当に「粗野」で「野蛮」で「文化的に未開」であったのだろうか?

 かつて地中海ヨーロッパで繫栄した古代ギリシャ・ローマ文明は、孤立的に発展していったのではない。その周辺に住んでいた文字を持たない異民族=barbariansたちは紀元前100年前後に古代ギリシャや古代ローマに出会った。彼らは長きにわたる先史時代の遺産を有しており、その時にはすでに道具の発明や製造、交易、農耕を行い、複雑な社会が形成されていた。古代ギリシャやローマに劣らない魅力的な物語を展開していたのである。

本書で著者は、紀元前2000年から紀元後500年ごろに焦点を当て、自身が研究の一端を担う現代考古学の発見をもとに、先史時代ヨーロッパの概観を改めて整理し直している。すなわち、Barbarian(s)という単語に悪いイメージが付与される原因となった、敵愾心がにじみ出た第三者による歴史史料等ではなく、異民族自身が残した儀礼的供物、集落の痕跡、埋葬品などの物理的な歴史資料をもとに、彼らの物語を丁寧に紐解いているのだ。先史時代ヨーロッパの歴史に、これほど豊かで多様な遺産、それにまつわる物語が隠されていたとは……と、読者はきっと驚くことになるだろう。

 また、考古学に興味がある読者にとって本書は、考古学とは何たるかを知る最適な入門書といえる。考古学それ自体の意義と歴史、その手法の変遷、そして古代の歴史・文化と現代のつながりを学ぶのに、まさにうってつけの本である。