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原題 The No-Limits Enterprise
著者 Doug Kirkpatrick
ページ数 252
分野 ビジネス、経営、企業
出版社 Forbes Books
出版日 2019/07/22
ISBN 978-1946633279
本文 1980年代、運送会社の経営者だったクリス・ルファーは、自らトラックを運転して荷物を運びながら様々な企業を観察し、仕事の合間を縫って大学へ通い、大量の本を読みあさり、企業経営について一つの結論を得た――19世紀から続いてきた官僚主義的なヒエラルキー型の経営手法が、企業の成功を妨げている。従業員たちは強制的に働かされるより、自律的に動いて協力し合うほうが幸福だし、良い成果を出せる。良い成果が出れば働く意欲がわき、企業の成長につながる。1990年、ルファーは新設する食品加工会社モーニングスターを役職や階級のないフラットな組織とし、セルフマネジメント型の経営手法をとろうと決めた。のちに同社はトマト加工の分野で世界最大規模の企業へと成長した。靴のオンラインショップを運営するアメリカのザッポスや、オランダの非営利地域在宅ケア組織ビュートゾルフも、セルフマネジメント型組織の好例である。
企業の人材獲得という面でもセルフマネジメント型の経営手法が肝になる。いわゆるミレニアル世代(1980年代前半~1990年代半ばに生まれた人たち)は、古い経営スタイルの企業を敬遠する。下積みと称して単純な作業を長くやらされたり、夜や週末にあくせく働いて経営幹部に自分の熱意を見せつけたりすることを、社会の常識だとは思っていない。人材不足にあえぐ企業は、自らを「起業家精神があふれている」とか「未来派企業」などと称して若い人々を確保しようとするが、実態は古い経営スタイルがまだ生きている。
そもそもヒエラルキー型の組織が出現したのは、18世紀末に始まった産業革命の時代だ。産業界は手工業から機械工業への転換を遂げ、大量生産・大量販売が可能になった。企業は社員を増やして業務を分担させた。経営者は各部署に管理者を置き、決定事項を社員に伝達させた。連絡手段が限られていたため、こうするしかなかったのだ。
中間管理職の多いヒエラルキー型の組織は決して機能的とは言えない。何か問題が起こると解決に余分なカネと時間を食うし、パワーハラスメントが起こりやすい環境でもある。現代の企業経営者に必要なのは、「人を管理しなければならない」という思い込みを捨てることだ。
人は日々の生活でセルフマネジメントをしている。自分の判断で家事をし、結婚し、育児をし、車や家を買ったりもする。職場でセルフマネジメントができないはずはない。もちろん、実際に組織改革をおこなう上で考慮すべき事柄はある。本書は、企業が旧弊な組織を捨て、新しい時代に即した姿へと変わるための、格好の手引書となるだろう。