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原題 A entidade
著者 Luciana Strauss
ページ数 120
分野 フィクション
出版社 DBA Editora(ブラジル)
出版日 2023/09/18
ISBN 978-6558260578
本文 役所における日常の人間関係を寓意的に描く物語。この小説で言う「組織」とは、国家公務員の職場であり、ダークで嫌気のさす場であり、職員たちが競って権力を求め、陰謀や脅迫の渦巻く場所でもある。そんな職場で働く最年長者である主人公のネリーは、組織内の争いには一切身を委ねず、ジョゼ・ルイスという桃売りを慕い、彼からの電話が来るのを日々楽しみにしている。役所でのギスギスした雰囲気とは対照的に、ネリーは想像の翼を広げながら仕事をしている。彼にとって、事務机の引き出しは、魔法のような組織のあるパラレルワールドへの入り口となっているのである。
他の役人たちは絶えず特権を求め、地獄にいるようにさまいつつ、不条理な悪循環から逃れられずにいる。彼らは官僚であるがゆえに受ける束縛によって、フラストレーションを抱える。このように、シビアな現実の制度下で働く公務員の姿が、単なる操り人形であるだけにとどまらず、一人一人束縛を受ける存在として描かれ、何らかの組織に勤める読者の心を強く惹きつける。
社会批判や、ファンタジー、あるいは風刺文学として読むこともできるこの作品は、一筋の希望の光も宿している。人生は束の間で、はかないものだからこそ、つまらないことにとらわれている場合ではない、と教えてくれる。
期待の新人作家による、この初々しいデビュー作は、シンプルで明晰な言葉遣いでつづられており、読みやすい文体になっている。会話文が多く、登場人物が生き生きと描写されている点が印象的だ。ユーモアもまじえた親しみやすい作風も特徴となっている。
まさに厳しい人間関係や過酷な困難に満ちた現代に生きる私たちにとって、心安らぐオアシスとなるような、大人のためのおとぎ話といえる。たとえば、刺激的で激しくスリル満点のハードな物語に対して食傷気味になり、思い切って現実逃避したいという欲求に駆られた時、その期待に見事に応えてくれること請け合いである。