原題 | O inconsciente corporativo e outros contos |
---|---|
著者 | DAN |
ページ数 | 216 |
分野 | フィクション |
出版社 | DBA Editora(ブラジル) |
出版日 | 2023/04/06 |
ISBN | 978-6558260578 |
本文 | 全9話から成る短編集。全編にわたって、何らかの形でテクノロジーに関わるデジタル世代の人々を描く。ビットコインやAIなどが現実世界とは切り離された無人環境に登場し、読者の心を惑わす迷宮のような、魅惑の世界が織りなされる。 たとえば、かつて実在したアルゼンチン出身作家ボルヘスによる新たな創作作品なるものも生み出してしまうほどの先端技術を描く、斬新な作品がある。あるいは、或る人物に関するインターネット上のプロフィールが、本人の実像とは懸け離れており、プログラミングによって、いわばいくらでも盛りに盛った別人格の創出が実現されると同時に、その人物のアイデンティティが消失する有様を描く作品もある。 すべてはプログラミングが可能である、という世界観のもとに、デバイス、データ送信、ソーシャルネットワーク、AI等に浸食された様々な関係性や、それにともなう自己喪失といったことが語られる。 こうして、まるで蜘蛛の巣に捕らえられた獲物のように、テクノロジーが私たち人間を魅了して引きずり込む、そんな奇妙な時代を見事に文学作品に昇華した作品集といえる。 現代社会を生きる読者に対して、ある種の居心地の悪さを与えつつも、関心を惹いてやまない物語ばかりである。 複雑で逆境に満ちた現代社会を理解したい読者にとっての必読書といえるほど、従来の文学とは明らかにひと味違い、テクノロジーと人間社会との関係性に関して問題提起がなされている。 そのため、これまでの文学では飽き足らない、最先端技術に導かれる現代社会を生き延びようとするすべての人々にとって、今後ますます複雑化していく時代を生き抜く自分たちの未来像をとらえるのに、うってつけの短編集である。 単に、読む者の感情に訴えかけるような情緒的な要素だけに重きを置くのではなく、現在の人間社会を取り巻くテクノロジーに対する理解を深めたい、という読者の知的欲求をも満たしてくれること、間違いなしである。 |