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原題 Paris
著者 Mary McAuliffe
ページ数 304
分野 歴史、地理、旅行、観光ガイド
出版社 Rowman & Littlefield Publishers
出版日 2023/05/15
ISBN 978-1538173336
本文  世界一の観光都市と言われるパリ。本書では、ありきたりの観光名所だけでなく、古い歴史を持つこの都市のさまざまな面、場所を取り上げて深堀りし、その魅力を十全に伝えていく。

 モンマルトル、モンパルナス、エッフェル塔、ルーヴル美術館、オルセー美術館、セーヌ川といったパリと言って誰もが思い浮かべる名所ももちろん紹介されるが、本書はただの観光名所案内書ではない。パリにとりつかれ、パリのあらゆる区画を知りつくした著者のメアリー・マコーリフは、こういった名所から新しい発見を引き出すとともに、知られざる何気ない場所へと読者をいざなう。ノートルダム大聖堂の誰も注目しない一角の浮彫から、古びた病院内の目立たない中庭、そして古代の水道橋まで、読者は著者の筆の赴くまま、魅惑的な旅案内を楽しむことになる。

マコーリフが着目するのは場所ばかりではない。人やその背後にまつわるエピソードにも筆を伸ばす。フランス革命やオスマンによるパリ大改造、パリ万博、第二次世界大戦といったパリの歴史を背景に、悪女の女王、腹に一物抱えた貴族、中世の勇敢な騎士、絶望にかられた恋人、印象派をはじめとする画家たち、第二次世界大戦のレジスタンスの闘士など、パリを彩ってきた人々の人生が語られていく。豊穣なパリの物語は、時代を追って進む年代記ではない。パリにはあらゆる時代がいくつも層をなして同時に存在しているのだ。読者は、本書で示されるそれらの層の断面からパリの新たな魅力を発見し、旅心を誘われるにちがいない。