原題 | Linguistic Fingerprints |
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著者 | Roger Kreuz |
ページ数 | 256 |
分野 | 社会、文学、言語、コミュニケーション |
出版社 | Rowman & Littlefield Publishers |
出版日 | 2023/08/15 |
ISBN | 978-1633888975 |
本文 | 計量文献学(stylometry)という語をご存じだろうか。知らなくとも私たちはそれと気づかずにその域に踏み込んでいることがある。送られてきたメールの文章を見て本当にその人が送ったものかどうか、webのカスタマーレビューが本物かどうか頭をひねったことがあるだろう。その時判断の決め手になる要素の一つが文章に表れている特徴だ。文章の特徴を数値化して分析するのが計量文献学である。指紋や声紋が人を特定できるように、計量文献学の手法を用いれば筆者を特定できるようになるのだろうか。 1996年に出版された『Primary Colors』は1992年の大統領選における候補者ビル・クリントンの陣営の内幕をもとに描かれたフィクションだったが、作者は匿名であった。実作者としてクリントン政府内の人物やプロの作家の名前が取りざたされたが、決め手となったのはシェイクスピア学者と筆跡鑑定の専門家のコンビによる調査結果だった。シェイクスピア学者による使用語句の分析は著作者自身が書いたメモに残された筆跡の鑑定結果とともに疑問の解明に大いに役立ったのである。ハリー・ポッターシリーズの作者、J.K.ローリングも匿名で出版した犯罪小説が自身の手によるものであることを使用語彙の分析により突き止められてしまった。 さらに有名作家、例えばエドガー・アラン・ポーやルイス・キャロルが書いたかもしれない新たな作品の探索など、文学的好奇心をくすぐる話題には事欠かないが、学術面だけでなくもっと実際的な分野でもこの知識は有用である。テロリストが自らの論文をメディアを通じて公開したため、その文章の特徴に親族が気づき、詳細な分析の結果逮捕につながった例もある。計量文献学の実践は様々な分野でこれまでも大きな成果が上がってきている。強力なコンピュータテクノロジーの助けを借りることによってこれからもこの領域はますます発展するだろう。しかしそれと同時にこの分析法にはプライバシーにかかわる領域に踏み込まざるを得ないこともある。科学と人間性のバランスをどうとるかがこのツールを有効に活用するためのカギでもある。 |