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原題 The Art Public
著者 Oskar Bätschmann
ページ数 248
分野 美術/歴史
出版社 Reaktion Books
出版日 2023/06/01
ISBN 978-1789146943
本文 芸術と大衆の関係とはいかなるものなのか。古代ギリシャで有名な画家、アペレスは、自分の絵の評価を知りたくて、作品の陰に隠れて聞き耳を立てていた。ルネサンス芸術運動に身を投じたアルベルティは、その時代の同業者に、自分たちの制作に対して広く意見を求めるべきだと主張した。レオナルド・ダビンチは、人々の反応を見越した上で、自身の絵画をみせていた。古代ローマでは、都市全体が素晴らしい芸術を追い求めていた。18世紀には、英米国の上流階級の若者は、教育の一環として古代遺跡、彫刻、絵画を視察するために、イタリアを巡遊した。

ルネサンス以来、大衆は、芸術家、知識階級、芸術通によって、侮辱され、あざ笑われた一方で、ご機嫌うかがいのように、大衆の反応も見られてきた。歴史画では、鑑賞する人によって、その絵画の出来事がいかに重要であったかを示すことができたし、対話劇では、ビクトリア女王の王配、社交界の名士であるオスカー・ワイルド、またはショービジネスのスターたちのために、聴衆は、引き立て役になった。

博物館は、社会的立場に応じて観衆を分類するも、印刷メディアやビジュアルメディアでは、芸術は大衆化していった。現代のアート市場が求めているのは、すべての大衆だ。あらゆる国に通じる芸術が展示されている場所は、もはや観光地である。本書は、このように芸術の大衆化が広まったのは、芸術と大衆が長い歴史で積み重ねてきた成果であることを、歴史を追って明らかにする。