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原題 Pet Revolution
著者 Jane Hamlett and Julie-Marie Strange
ページ数 288
分野 社会、歴史、動物、その他
出版社 Reaktion Books
出版日 2023/02/15
ISBN 978-1789146868
本文  2020年は人間とコンパニオンアニマルにとって、かつてない年であった。イギリスだけでも320万の家庭が新しいペットを飼い始めた。2021年までに全家庭のうち59パーセントが少なくとも一匹のペットを飼っており、ペットのいない家庭が少数派に転じたのは記録がたどれる限り初めてのことだという。ペット数の増加に伴い、ペットフードの需要の高まりや取引価格の上昇も見られるが、いっぽうでこうしたペットへの強い関心が短命に終わるのではないかという危惧もある。パンデミックによる収入の減少や飼育に伴う困難のせいですでに新オーナーの5パーセントがペットを手放してしまったという。それに対し初めてペットを飼った35歳以下の人の74パーセントが、ペットとの触れ合いがパンデミック期のメンタルヘルスに役立ったと答えている。
 
 本書ではペット飼育の200年間にそれがイギリス人とその家庭にとっていかに欠くべからざるものになったをたどることによって、2020年にコンパニオンアニマルが果たしたたぐいまれな役割が説明されている。かつては家で飼われている動物と言えば家畜であり、せいぜい何らかの役に立つもの、例えば家畜を追うとか狩猟とか害獣を殺す働きをするものであった。それが18世紀には上流階級でペットの飼育が流行し、19世紀には幅広い社会階層に広がり、文化として社会に受容されていく。そしてそれはやがてペットフードや治療薬、さらにペットショップの登場、獣医学の発達につながり、「ペット経済圏」を形成する。最も肝心なのはペットは社会のどの階層でも家族の中で強力な癒しの役割を担い、新しいタイプの関係と家庭生活を作り上げたということだ。「ペット」という呼び名からは他人の支配下にはいり個々の独立性を失うという侮蔑的な意味合いが感じられるとして、昨今は「コンパニオンアニマル」や「ノンヒューマン(人間ではない存在)」という表現が使われるようになってきている。

1824年に動物虐待防止協会(のちの英国王立動物虐待防止協会)が設立されて以来のペットをめぐる環境改善、動物福祉への取り組みの歴史も紹介されている。

 本書はコンパニオンアニマルと人間との歴史を通じて、「ペット改革」が産業や農業や政治の改革同様に現代のイギリス社会にいかに貢献しているかを浮き上がらせる一冊だ。