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原題 The Coronation
著者 Charles Eisenstein
ページ数 192
分野 哲学、社会、政治
出版社 Chelsea Green Publishing
出版日 2022/07/28
ISBN 978-1645021780
本文 本書はコロナ感染症について様々な方面からアプローチしたエッセイ集である。部分的には過去2年間にわたり筆者の見解の揺れ動きが見られるが、その多様性がコロナ感染症の捉えどころのなさも物語っている。コロナとはいったい何なのだ。それは宗教的ヒステリアであり、疫病の大流行であり、全体主義勢力のツールであり、いけにえを生む潜在的な力の表出である。どの視点もそのほかの視点からは見ることのできない特徴的な側面を持っているがどれもコロナの正体をとらえきれてはいない。したがって筆者もどれか一つと決めつけることは避けている。

 コロナ禍以前の2016年に執筆したジカ熱に関するエッセイではすでにあらゆる考え方が医療主体にシフトしていく社会になったことが指摘されていた。そして2020年、パンデミック宣言が発令された当初に発表したエッセイでは移動、商業活動、集会などの制限やマスクの着用、身体的接触の自制を押し付ける社会全体の統制と人々の意識が論じられている。賛否両論を巻き起こしたこのエッセイは、パンデミックの長期化が考慮に入っていなかった当時よりもむしろ様々な変異体が次々と現れ、出口が見えなくなった今のほうが重要度を増していると筆者は述べている。

その後世の中はあたかもセキュリティー国家の体をなし「セーフティーファースト」の呪文に人々は縛られてしまったようだ。「命を救うことに比べれば活動や人とのかかわりを犠牲にすることぐらいなんだって言うんだ」という声に対して、それは絶対的な価値観ではないと筆者は主張し、パンデミックで取られた方策が子どもの発育や精神的安定に与える影響について述べている。さらに人種による致死率の差からくる白人優越主義の考え方、カナダ、オタワで発生した行動制限に対するトラックドライバーによる抗議行動フリーダム・コンボイ、環境と健康の問題なども取り上げ、刺激的な論調を展開している。