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原題 Stethoscope
著者 Anna Harris and Tom Rice
ページ数 224
分野 世界史、医療文化史
出版社 Reaktion Books
出版日 2022/12/14
ISBN 978-1789146332
本文  人々にとって身近な物であり、医療職のビジュアルアイコンとしても広く親しまれている聴診器は、どのような歴史を辿って今のような存在になったのだろうか。
 本書は、人類学者である著者2人が、聴診器が使われている現場でのフィールドワークと文献調査から集めた知見を元に、聴診器の文化史と今後の展望を提示する一般向け教養書である。医療のデジタル化が進んだ現在、存続の危機にあるともいわれる聴診器の歴史を辿ることで、これからの時代に求められる医療のあり方も探る試みである。
 聴診器が19世紀にヨーロッパで発明されてから多様な形で受け入れられ広まっていった過程、医師と患者の関係や医師のスキルや医療の発展に与えた影響、やがて人々にとって身近な存在になった経緯をひもとくとともに、多様な活用法、聴診器使用スキルの指導・継承、現代の聴診器無用論と擁護論、地域による違い、技術革新の歴史を紹介し、また芸術や文学における聴診器の表象についても触れ、聴診器について幅広い見地から多角的に考察している。
 読者は一見単純に見える聴診器という物に実に多彩な歴史や物語が秘められていることを知る楽しみとともに、自分たちが求める医療のあり方を改めて考える機会を得ることだろう。発明当初は合理主義とよそよそしさの象徴であった聴診器が、現在のように医師が患者に寄り添い患者の身体の訴えを聞く人間的な医療を体現する物になるまでの文化史を学ぶ中で、人間の身体についての捉え方や〝聞く〟という行為のあり方の歴史についても考えを深めることができる。