原題 | Shadowland |
---|---|
著者 | Sarah Colvin |
ページ数 | 256 |
分野 | 歴史、社会学 |
出版社 | Reaktion Books |
出版日 | 2022/09/21 |
ISBN | 978-1789146271 |
本文 | 世界の刑務所の収容人数は普通の人口よりも速いペースで増えている。所内は過密状態で職員の数は少なく暴力のレベルは上がっている。アメリカでも中国でも刑務所の人口は200万人を超え、南アメリカでは2000年以来その数は3倍増した。ドイツでも「新処罰方式」により刑期は長くなり刑務所の人口は急速に増えている。刑務所に犯罪者を収容しておくことは費用がかかるわりに、その効果は不明だ。それでもドイツはアメリカやイギリスと比較しても刑務所の収容者ははるかに少なく環境も良好で人権にも配慮されている。所内のドイツ国籍所有者には選挙の投票権が認められている。最近では、収容者の組合が発足し、正当な賃金や年金といった問題に取り組んでいる。全国拷問防止協会が毎年、国内の施設を訪れ、最近ではコロナ流行期の状況についてレポートしている。 本書はドイツの刑務所の歴史を体系的に書いたものではない。可能な限り刑務所の人々の声を通してドイツの歴史を語ったものである。「刑務所は社会の鏡である」と言われる。「刑務所は拡大鏡に過ぎない」ということは、刑務所の人々も普通の人たちよりも良いわけでも悪いわけでもない。私たち同様に、彼ら自身が社会なのだ。悪名高い囚人の物語はよく目にするが、本書に登場するのは刑務所の「小さな人たち」の話だ。多くのケースで、犯罪に手を染めた背景に、失業や貧困、消費社会に加わりたいという欲求が潜んでいることがある。中には同性愛で罰せられているものもいる。特に戦後の西ドイツでは成人男子同士のセックスは1969年まで違法とされていたという事情もある。 第2次世界大戦終結後に始まる囚人たちの話は悲惨を極める。食糧難、極寒の監房、ナチ上がりの看守、暴力、囚人同士の上下関係。特に終戦後孤児や親に虐待され家出した子どもたちががれきの中を生き延びるために犯罪に手を染め収容されたものの多くは暴力をふるったり、暴力を受けたりすることが異常だとは感じていなかった。ようやく刑期を終えて出所しても世間の風は冷たく、定職につけないまま再び刑務所に戻ってくることも少なからずあった。こうした状況を改善しようと改革への声が上がっても、現実は一筋縄ではいかなかった。 本書は、東西ドイツ、統一ドイツの刑務所収容者や元収容者の声を記録して見えてきた刑務所の課題と改革へのプロセスと、ドイツという国そのものだ。 |