原題 | The Index of Prohibited Books |
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著者 | Robin Vose |
ページ数 | 352 |
分野 | 歴史 |
出版社 | Reaktion Books |
出版日 | 2022/10/24 |
ISBN | 978-1789146578 |
本文 | その名簿に連なった人物の名前には驚きを禁じえない。マキャヴェッリやガリレオ、ケプラーにデカルト、スピノザなど。中世ヨーロッパ以降の哲学や科学、政治経済思想の重要な思索を支えた希代の泰斗ばかりだ。当時、彼らの業績は否定され、彼ら自身も迫害を受けていた。その結果起きた、知の損失ははかり知れない。 彼らの名が記載された名簿とは、16世紀にローマ・カトリック教会が掲示した『禁書目録』のことだ。カトリックの教義に反する危険思想が含まれていると判断された書物を、信者に向けて明示した目録だ。こうした書物は、読んだり、所持したりしていただけで重罪に問われ、ときには死を持って償わされた。目録が発表されてから400年以上を経た1966年、禁書目録は廃止されている。 本書の目的は禁書目録が作成された経緯を歴史的に考察し、検閲や表現の自由について理解を深めることにある。 現在、アメリカの4割の人々が、ダーウィン著の『種の起源』で提唱された進化論を信じていないという。創造論を支持するキリスト教原理主義の勢力が強く、その影響力は政治にも深くおよび、進化論について教えない学校も多いからだ。また中国政府には国家インターネット情報弁公室という機関があり、ネット上に共産党批判の言説が流布していないか検閲するため、数万人の職員が24時間、目を光らせている。中国のみならず、北朝鮮やロシア、中東やアフリカの独裁国家など、表現の自由の実現には、ほど遠い国も少なくない。禁書や検閲による政治的な思想統制は、過去の遺物ではないのだ。 言論の弾圧と風説の排除は、まったく似て非なるものだが、その線引きは難しく、ジレンマをともなう。そんな課題を抱える現在の高度情報化社会ついて考える上でも、本書は有用な一冊だ。 |