原題 | MOTHER BRAIN |
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著者 | Chelsea Conaboy |
ページ数 | 368 |
分野 | 科学 |
出版社 | Henry Holt and Co. |
出版日 | 2022/09/13 |
ISBN | 978-1250762283 |
本文 | わが子を柔らかく抱きしめると伝わってくる小さな温もり。身の周りの世話に明けくれ、大きな泣き声で眠れない夜。我が子にどう接すればいいか悩む日々。古今東西を問わず、親になるという経験は、人生の大きな喜びと同時に、さまざまな苦労と苦悩をともなう。親になるとはどういうことなのか。この一筋縄でいかない難問を脳神経科学の見地から解き明かそうとするのが本書の試みだ。 ホルモンバランスの状態や子育てから受けるさまざまな刺激が原因となって、人は親になった直後から、脳神経細胞に大きな変化が起きるという。この脳内での変化は、子育てという新しい環境に適応する上で重要だ。また育児では非科学的な俗説もまかり通っている。たとえば生物の母親が持つ普遍的本能を意味するとされる「母性本能」。そもそも母性本能という言葉は正式な学術用語ではなく、あきらかに誤った考えだと著者はこれを一蹴する。本書はこれまで議論されることの少なかった、こうした内容についても科学的に考察していく。 著者は脳神経科学の権威でもなければ、幼児教育の第一人者でもない。しかし筋金入りのジャーナリストとしての取材力と二児の母親であるという経験が生んだ本書は、門外漢が執筆したとは思えない秀逸さと、専門家とは一味違う独自の視点を合わせ持つ。また本書は子育て術を事細かに羅列するハウツー本や、親のあるべき理想像を押しつけるだけの、ありがちな教育書とは一線を画す。自分はいま親としてどんな状態にあるのか。そして、これからどんな親になろうとしているのか。そんな本質的なことを理解しながら、自分自身を見つめる機会を与えてくれる一冊だ。 |