原題 | Doping |
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著者 | April Henning and Paul Dimeo |
ページ数 | 320 |
分野 | スポーツ、医学、社会問題 |
出版社 | Reaktion Books |
出版日 | 2022/05/16 |
ISBN | 978-1789145274 |
本文 | スポーツは今や特異な産業になっている。オリンピックやサッカーのワールドカップのような大会は何十億もの人たちを楽しませている。一流のプレーヤーの名前は世界に知れ渡り、スポーツの恩恵は多岐にわたる。すべての年代の人たちにとってスポーツは健康、コミュニティー、レジャー、レクレーションと結びついている。しかし、スポーツが広まる過程で明るい面だけでなく暗い面も同時に表れてきたのも事実である。その一つがドーピングだ。 本書では、多くの選手が使用をためらわなかったステロイドなどの薬物が、禁止されるようになり、アンチドーピングのシステムができるまでの歴史を、当事者や関係者の証言も交えて詳らかにする。20世紀初頭のスポーツ界ではすでに薬物が使用されているが、当時は薬によって肉体が一時的に活性化される点だけに注目が集まり、健康への弊害や薬の力を借りる善悪について論じられることはなかった。両大戦間の世界にはスポーツは清廉であるべきという考えがあり、アマチェアリズムから薬物の使用を疑問視する声が上がったものの、勝利を目指す貪欲さ、栄光や名誉を目指す欲求、世間の期待、さらには東西冷戦時代の国家間の威信をかけた戦いにより、ドーピングはなかなかなくならなかった。一方で元IOC会長のアベリー・ブランデージは1960年にドーピングに対する懸念を表明し、以降、各国際競技連盟では少しずつではあるが対応策がとられるようになってきた。 WADA(世界ドーピング防止機構)によるアンチドーピングシステムが運用されている現代でも、多くの問題がある。禁止薬物の種類は増える一方で、気づかずに服用してしまったアスリートへの処遇をどうするか。またコロナパンデミックにより、検査数が激減してしまったことも問題である。検査方法自体も常に議論の対象にされている。スポーツ界で、アスリートたちに不要な制裁を科すことなくアンチドーピングのシステムを機能させることは可能なのだろうか。筆者は最後に将来に向けて3つの提言を行っている。 |