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原題 FLYING SNAKES AND GRIFFIN CLAWS
著者 Adrienne Mayor
ページ数 448
分野 歴史、古代史、古代文明
出版社 Princeton University Press
出版日 2022/06/07
ISBN 978-0691211183
本文 古代の科学史、民俗学に造詣の深いエイドリアン・メイヤーが、歴史学、科学、考古学、人類学などさまざまな学問領域を越境して、神話、伝説、民間伝承に埋め込まれた歴史的真実を明らかにする。メイヤーが専門とする古代を中心にしつつも、中世や現代にも話はおよび、架空、現実を問わずさまざまな動物たちの生態や、歴史上の勇気ある女性たち、古代の風変わりな風習など、知的興奮に満ちた発見が語られていく。

メイヤーが紹介する題材は興味を引くものばかりだ。エジプトの空飛ぶヘビや、推理小説家コナン・ドイルが『失われた世界』を書くきっかけとなったと思われるウミヘビ、古来よりその頭の良さで人間の興味を引いてきたイルカ、毒の入った糞をする鳥などのさまざまな動物たち。

著者の専門領域のひとつである、ギリシア神話における女性戦士のみからなる民族「アマゾン族」をはじめとする歴史上の勇敢な女性たち。幽霊船や海上の蜃気楼、古代ギリシアの哲学者アリストテレスの人相学の技術、古代ギリシアにまでさかのぼる「足フェチ」の歴史、フランスの作家フローベールの『サランボー』に関する新解釈など、歴史と科学の境界の探求。

古代の刺青や香水、カリギュラやマクシミヌス・トラクスといったローマ皇帝の暴虐ぶりなど、古代の風変わりな風習や暴君たち。古今東西のあらゆる話題が、軽やかな語り口で次々と展開していく。

メイヤーは、ただ神話や伝説の虚偽をあばくのではない。その背後にある魅力的な真実を追求して、読みやすいとっておきのお話として私たちに提供してくれるのだ。読者は全50章からなる物語を堪能できるに違いない。