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原題 DUEL WITHOUT END
著者 Stig S. Frøland
ページ数 632
分野 医学、歴史
出版社 Reaktion Books
出版日 2022/05/16
ISBN 978-1789145052
本文  天然痘はウイルス性の感染症の一つである。ヒトに対して非常に強い感染力を持ち、古代から世界各地で猛威を振るってきた。紀元前1100年代ころに没したとされる古代エジプト王朝のラムセス5世は天然痘で亡くなったとされる。日本も渡来人の往来が活発になってきた6世紀半ばころから、幾度となく天然痘の流行を経験し、多くの人々がその犠牲となった。感染予防の医学的知見や手法が皆無だった時代、人々にできることといえば、神仏に祈りをささげるくらいだった。奈良の東大寺に大仏が建立されたのも、天然痘の流行が一因である。
 幸い、抗生物質やワクチンが開発されそれらが普及するにつれ、20世紀半ばころから、先進国を中心に天然痘の流行は収束していった。1977年以降、自然感染の天然痘患者は報告されていない。それから3年後の1980年、世界保健機関(WHO)は地球上から天然痘ウイルスが駆逐されたとして、『天然痘根絶宣言』を発表している。天然痘は人類が唯一根絶に成功した感染症である。
 しかし人類と感染症との戦いが終わる気配はない。ペストやインフルエンザ、エイズやエボラ出血熱、そして今日の新型コロナウイルス。人類が根絶できていない感染症は数多い。
本書は人類と感染症の歴史を遡り、感染症の流行が人類の歴史をどう動かしてきたのかを明らかにしていく。
また未知の流行疾患や生物兵器・バイオテロの恐怖、抗生物質の効かない細菌や宇宙開発を通じて地球外から病原体が持ち込まれる可能性など、感染症にかかわる様々な問題を取り上げていく。
 見えざる敵との果てしない戦いの中で、我々人類は何を考え、何をすべきなのだろうか?