原題 | GROWTH FOR GOOD |
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著者 | Alessio Terzi |
ページ数 | 320 |
分野 | 経済、環境、社会 |
出版社 | Harvard University Press |
出版日 | 2022/04/26 |
ISBN | 978-0674258426 |
本文 | 2020年1月下旬、スイス東部のダボスで、世界経済フォーラム年次総会、いわゆるダボス会議が開かれた。その会議の壇上で演説を行った一人がスウェーデンの高校生グレタ・トゥーンベリさんだ。若き環境活動家の彼女は、温室効果ガスの排出量を即刻ゼロにしなければ、とり返しのつかない事態になると脱経済成長を訴え、化石燃料への投資や補助金拠出をやめるよう呼びかけた。ところが彼女の主張に対し、当時、米財務長官を務めていたスティーブン・ムニューシン氏はやや皮肉まじりにこう言った。「まず大学で経済学を学んでほしい」 トゥーンベリさんの言うとおり、地球温暖化が解決すべき喫緊の課題であることは論を待たない。しかし経済成長が滞れば、失業率が増加するのはマクロ経済学の基本だ。脱成長で大量の失業者が出れば、国や社会の安定はゆらぎ、そもそも環境問題の対策どころではない。また環境対策には莫大な費用がかかる。世界各国がその費用をどう捻出するかを考え、政策を決定する上で、経済学の果たす役割は大きい。そうした意味でムニューシン氏の発言も一理あるわけだ。 新型コロナウイルスの世界的流行により、多くの国がロックダウン(都市封鎖)措置や様々な経済活動の自粛をせまられた。しかし、そうした措置によって、CO2排出量は各国で急減し、人出が少ないことで自然環境が大幅に回復した地域も多い。人間の経済活動が減れば、自然環境は改善する。やはり二つを両立することはできないのだろうか? 欧州委員会の経済学者である著者は両立できると主張する。そのために彼はgreen capital-ism(環境資本主義)への移行を提唱する。環境資本主義とは、資本主義や市場経済の原理を活かしながら、破壊された自然環境の回復を図る考え方だ。本書はアダム・スミスやマルクスなどの古典経済学派の歴史も紐解きながら資本主義の本質を明らかにし、環境資本主義への道筋を示していく。 |