原題 | THE INVENTION OF TOMORROW |
---|---|
著者 | Thomas Suddendorf, Jonathan Redshaw, Adam Bulley |
ページ数 | 336 |
分野 | 科学史、自然史 |
出版社 | Basic Books |
出版日 | 2022/09/20 |
ISBN | 978-1541675728 |
本文 | 人類の祖先が火を使用するようになった時期は諸説あるが、少なくともおよそ20万年以上前と推測される。火があれば、暗闇を照らし、寒くても体をあたためられる。獰猛な捕食動物を追い払い、食材も殺菌したり、柔らかく食べやすい状態で口にしたりできる。人類が火の使用から得た恩恵は計り知れない。 暗い夜間に火を使うには、明るいうちに燃料となる薪を集める必要がある。火のついた松明は周囲に燃え広がらないよう、安全管理が欠かせない。こうした何気ない人間の行動には、昼間のうちに夜間という先のことを考えたり、火の状態やその推移を予測したりするという、高度な知的能力が求められる。人間以外の動物が火を使用できない理由の一つだ。 古代ギリシャ神話に登場する巨人神プロメテウスは、天界の火を盗み出して人間に与えたという。プロメテウスとはギリシャ語で「先見の明の持ち主」を意味する。この説話は神から授かった火と、それを使うのに必要な未来を見通す力について暗示していると思われる。 本書のテーマは、foresight(未来を予測する先見の明や洞察)だ。これこそが、人間と他の動物をへだてる人類固有の特殊能力であると著者らはいう。また人間が未来予測や計画立案には限界があると認識している点も、他の動物にない、もう一つの特殊能力だ。人間はその限界を知るからこそ、歴史に学び、予想外の緊急事態を想定し、危険を回避しようとする。本書は認知神経科学や考古学、心理学や経済学、進化生物学などの様々な学問分野の最新の知見を紹介しながら、先見の明と洞察が人類の歴史を作り上げる上で、どれだけ重要な役割を果たしたかを示していく。 人間は愚かな過ちを繰り返す。それは確かだ。しかしそれでも、未来を切り開く能力において比肩する動物は存在しない。われわれ人類の未来はきっと明るいと思わせる一冊だ。 |