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原題 THE MEAT PARADOX
著者 Rob Percival
ページ数 352
分野 食品、社会問題、倫理学、心理学
出版社 Pegasus Books
出版日 2022/03/01
ISBN 978-1643138732
本文  私たちの未来の食卓を左右する要素は、新たな科学技術の出現、地政学的な緊張、文化的嗜好の変化、パンデミックや経済対立の影響、気候変動と生態系の危機への対応…と挙げればきりがない。そして、私たち人間だけが抱く感情:Meat Paradoxも大きな影響を与えるであろう。
 Meat Paradox:「動物を愛する」と同時に「動物を殺して食べる」ということに矛盾を感じるのは、つい最近まで倫理学者や、倫理観の高いごく少数の人に限られていた。しかし、今では、SNSや朝のテレビショーなどの身近な場面で「肉を食べるべきか?」という疑問が取り上げられるようにもなり、レストランのメニューやスーパーマーケットの商品棚にもその流れが反映されることが増えた。
英国、欧州、北米においては「ヴィーガニズム」が近年高まりを見せている。また、日本に古くから伝わる精進料理もヴィーガニズムの側面をもつといえる。
 大昔はヒトもキツネやクマと同様に、手に入る物であれば動物、植物問わず何でも食べ、それらが栄養となれば良しとしていた。ところが、「殺生される動物を哀れむ」極めて特異な捕食者へと進化し、その結果、肉は人類にとって貴重な栄養源であるとともに、倫理観を揺さぶる食物に変わった。本書では、このMeat Paradoxという人類だけがもつ複雑な感情の起源はいつなのかという問いへの答えを、主義・主張ではなく、心理学、神経科学から人類学、倫理学に至るまで多様な分野の最新の知見を引用しながら客観的に導き出していくとともに食肉の未来について語る。
ヴィーガンやベジタリアンであるか否かに関わらず、食物となる動物に人類が同情の念を抱くようになった起源、私たちが食事を選択する時に影響する心理に少しでも興味があれば、ぜひ手に取っていただきたい一冊である。