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原題 The Warehouse
著者 Alessandro Delfanti
ページ数 192
分野 労働・社会問題、経営、インターネットビジネス、ロボット
出版社 Pluto Press
出版日 2021/10/20
ISBN 978-0745342177
本文   2017年11月、イタリア、ピアンチェンツァにあるアマゾンの巨大倉庫の労働者たちがストライキに入った。従業員たちは世界で初めてアマゾン帝国に宣戦布告をしたのだ。あたかもその日は大規模なセールが展開されるブラックフライデーに当たっていた。さらにCEO、ジェフ・ベゾスの資産が1千億ドルに達し、世界で最も裕福な人物になったという発表があった日でもあった。当然この出来事は話題を呼び、皮肉なことにベソスが所有するワシントンポスト紙をはじめ各紙をにぎわせたのだ。

 世界規模で事業を展開しているアマゾンは巨大な物流倉庫を世界200か所以上においている。センターで働いている従業員数は世界全体で2011年には3万人だったが今では120万になっている。センター内を外から見るのは難しいが、労働環境はどこも似たり寄ったりである。ピアンチェンツァの件がきっかけになり、その後各地で労働者の抵抗が起こったのは不思議ではない。

 これに対してベソスの対応は冷たかった。「われわれは誤解されることを恐れてはいない」組合と会社を仲介しようと政府が招へいした会議をボイコットし、合理的な説明をすることさえしなかった。一体アマゾンの内部はどうなっているのか。企業サイドからの情報がほとんど得られないまま、筆者は各地の倉庫の従業員、元従業員(臨時雇用者からマネージャーに至るまであらゆるレベルの)に取材しその結果を本書にまとめた。そこにはテクノロジーの進歩と経営管理のテクニックにより労働者がいかに抑圧されているか、その姿が記されている。労働者の動き一つ一つを追跡するセンサーやオーダーを空いている従業員に回してさぼらせないようにするアルゴリズム。さらに筆者はアマゾンが主催するテクノロジーのイベント(MARS)にも足を踏み入れ、間もなく実用可能になる技術の数々を目にするが、それに対しても雇用や環境の面から疑問の目を向けている。アマゾン帝国はいつまで存続できるのか?全世界の問題に切り込んだ一冊である。