ブックレビュー ブックレビュー

原題 Cut-and-Paste Genetics
著者 Sahotra Sarkar
ページ数 205
分野 生命科学・遺伝子・生物
出版社 Rowman & Littlefield
出版日 2021/09/15
ISBN 978-1786614377
本文  「遺伝子」という概念は、その誕生以来常に生物学を利用した人間改造の志向、あるいは優生学と隣り合わせであった。サホトラ・サルカル氏は本書において、遺伝子と優生学という危険な組み合わせに批判的視点から踏み込む。遺伝学の歴史と最新の研究動向を追い、遺伝学が成し遂げた成果と過ちの数々、そして遺伝子にまつわる最新技術であるCRISPR編集技術の登場によって飛躍的に拡大された遺伝子操作の可能性などを詳しく見ていく。同時に、技術の進歩とともに常に問題となってきた倫理的課題の歴史も追っていく。本書は単に遺伝学の歴史をたどり、今後の研究の可能性を探っていくだけでなく、分子生物学全体の歴史をも俯瞰している。
 たったいくつかの遺伝子を操作することで、数々の遺伝病を根絶することを目指す一方で、さらに優秀な人間を作るために遺伝子操作を用いることも目指している遺伝学だが、それらの研究には常にリスクが潜んでいる。しかし今やCRISPR遺伝子編集技術の登場も相まって、遺伝子操作を禁止することは不可能である。社会の要請に応えつつ、適切な規制を行っていく必要があり、そのためにはこれらの問題について広く社会で議論がなされることが肝要であると、本書は結論付ける。昨年のCRISPR編集技術のノーベル化学賞受賞や、中国での遺伝子操作ベビーの誕生など、一般市民にとっても多くの遺伝子学に関する情報が飛び交う昨今、本書を読めば、遺伝子学のすべてを概観し、これからの動向を理解することができるようになるだろう。