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原題 WE ARE WHAT WE EAT
著者 Alice Waters
ページ数 208
分野 社会問題、健康法、料理
出版社 Penguin Press
出版日 2021/06/01
ISBN 978-0525561538
本文  オーガニック料理の聖地とも言えるレストラン「シェ・パニース」を半世紀前に始めたアリス・ウォータースは、日本でもファンが多い。レストランのほかに著書や社会活動を通して、旬の作物が持つ本来の美味しさ、それを引き出す生産者や自然の大切さ、食卓の団らんの温かさを伝えてきた。本書では、そうした活動の中心にあるスローフード文化について自身の考えをまとめ、明快に伝える。同時に、対極にあるファストフード文化がいかに私たちから人間性を奪っているかも鋭く描く。
 前半ではファストフード文化がもたらすものを語る。例えば、安さの追求からは、低賃金と、農薬や除草剤を使った大量生産が広がった。消費者の財布は痛まないが、社会の誰かや自然が痛めつけられ、結局は消費者自身に返ってくるのだ。何より、フライドチキンを店で買うより、美味しい鶏肉の塊を買ってチキンライス、チキンサラダ、チキンサンドイッチ、チキンスープと作った方が、数日は楽しめて安上がりだとアリスはいう。便利さの追求では、ゴール到達がすべてとなり、プロセスは軽視される。冷凍食品やカット済み野菜に頼れば、五感を駆使して調理する本来の楽しさは消え、料理は単なるやっつけ仕事に成り下がるという。

 後半ではスローフード文化を広めようと、志のある生産者やシェフ、活動家たちが奮闘する姿が描かれる。生産者は種を選別し、土地の特性を学び、作物を世話して、熟すのを見計らって収穫する。そうして提供された野菜や果物の味の豊かさ、多様さ、深さは息を飲むという。作物の来歴を知れば、それがいかに繊細な仕事から生まれ、届けられているかという大きな絵が見える。そして毎回の食事が、大地と生産者の営みにつながっていることを実感できる。

 何を食べるかは、自分がどんな世界で生きたいかということだ。私たちは食卓から変革を起こす力を持っている。まず味わうことから始めよう、とアリスは呼びかける。