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原題 Coal
著者 Ralph Crane
ページ数 224
分野 自然科学、エネルギー、地学、社会、歴史、文化
出版社 Reaktion Books
出版日 2021/04/15
ISBN 978-1789143669
本文 近年では気象変動の懸念から石炭産業に対する風当たりは強いが、産業革命以降黒いダイヤモンドの恩恵をだれもが受けてきた。人間の歴史や社会的環境、自然環境に与えてきた影響は計り知れない。本書では石炭と人類とのかかわりを古代から現代まで、様々な視点から描写している。

 古代の人類が石炭を利用した痕跡は世界各地で見つかっているが、明確な使用が確認されたのは中国の漢時代のものが最も古い。隋の時代には石炭を燃料として食料を料理したり酒を温めたりした記録が文書に残されている。ローマでも燃料として石炭が使用され、侵略地のイギリスでもアクセサリーの加工や蛇除けとして利用されていたことがわかっている。その後石炭の使用目的が広がり使用量も増加の一途をたどり、ロンドンの大気汚染も同様に悪化した。産業革命はその状況に拍車をかけたが、ようやく20世紀後半以降多くの先進国では使用量がピークから減少に転じた。それでもまだ気候変動を引き起こす張本人とされながらも世界は石炭の使用に背を向けようとはしていない。現代の生活に必要欠くべからざる電気の約40%は石炭を燃料としている。

 したがって石炭と石炭産業は人間の生活と密接な関係を持っている。石炭の生産が飛躍的に増大する一方で労働環境の悪化、若年層の就労といった労働問題や労働者の権利を守るための組合活動がクローズアップされた。エミール・ゾラの「ジェルミナール」はそうした背景を持った短編小説である。小説や詩、歌、映像作品にも石炭や炭鉱生活をモチーフにした作品は多い。サンタクロースは悪い子の贈り物として石炭を靴下に残しておく、という言い伝えもある。一方現代では廃坑を利用した観光人気を博すなど、この黒い岩石を取り巻く話題は尽きない。