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物語は、二人の著者Dan と Hilaryの生い立ちを語るところから始まる。この30年ほどで、世界は銀行のデレギュレーションの流れの中で、社会の金融化(クレジット、ローンなど借金のしやすい社会)が急速に高まった。歴史的な低金利を背景に、英国民の債務は1兆6000憶ポンドにまでふくれ上がる。彼らは、住宅の購入や医療、教育を受けるために借金をしたのである。1400万人超のイギリス人(人口の20%)が、貧困に苦しんでいる。この個人の債務を売買する金融マーケットがある。この市場では、120万ポンドの債務がわずか2万ポンドで売買されている。なんと、債務額面の1-2%だ。一方で、債務者は額面どおりに、返済しなければならない。ある程度の債務不履行や延滞が発生しても、債務を購入した金融業者は大儲けだ。2008年の金融危機で金融機関が窮地に陥った時、英国ではLoyal Bank of Scotlandと、Lloys Banking Groupに対して英政府による巨額の救済処理が行われた(いわゆる” Too big to fail “)。事実上の債務帳消しである。それでは、何故大銀行は救済され、国民の債務は帳消しにされないのか。この社会的不公平を疑問に思い、これを解消しようとして、著者が立ち上げたプロジェクトがBank Job だ。新しい銀行をつくり資金を集めて、債務を売買するマーケットで、債務を購入し、国民からはその支払い(返済)を求めない。つまり国民の債務を帳消しにして、救済するのである。これが彼らの社会的正義の実現である。国民経済のあり方、社会正義について、また変革とは何かを深く考えさせられる一冊である。組織の構築から人材集め、資金集めの方策まで、その発想と実行力は、驚嘆の一語に尽きる。 |