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本書は、人類が古代から中世~現代と歴史の中で描画してきた動物分類図(イラスト)を紹介するとともに、その分類の背景にある思想の変遷および人間社会に与えた影響を辿った一大描画集である。数々の分類図は、微に入り細に入り動物の特色を精密に書き上げており、圧倒的な迫力である。芸術的遺産と言ってもおかしくない。本書は全4章(4つのステージ)で構成される。章の最初の短いエッセイが各ステージの歴史的背景を解説している。人類が野生の動物を体系化して分類をはじめた最初の動機は、その動物が毒を持っているか否か、あるいは人間を襲う獰猛で危険な動物か否かという生死にかかわるごく身近な問題意識からであった。中世のキリスト教は、動物分類図に大きな影響を与えた。Scalae naturae(存在の大いなる連鎖)という思想だ。動物たちはキリスト教の価値観によって分類、描画された。ルネサンス後の16~18世紀には、動物を宗教的思想ではなく、その形状の特徴・相違によって分類描画するようになる。古典思想(ギリシア・ローマ)への回帰である。動物分類のエポックは、19世紀のチャールズ・ダーウインとアルフレッド・ウォレスの自然選択理論の登場だ。すべての動物が共通の祖先に結び付いたのだ。現代は遺伝子の時代である。種は進化し分化するが遺伝子、染色体、ゲノムも進化する。動物は多くの相互作用を通してさまざまに適応変化する。化石の分析、評価も目ざましい進歩をとげている。コンピュータによる色彩画像も複雑な描画プロセスを助けている。現代の精密な動物進化の系統樹は、まさに茂みのような様相である。動物分類図は人類の知的探求心と芸術が融合した一大パノラマである。自然科学一般に興味のある読者、また美術・絵画に興味がある読者にも目を惹く一冊である。 |