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原題 Mars
著者 Stephen James OMeara
ページ数 232
分野 宇宙科学/天文学/文化人類学
出版社 Reaktion Books
出版日 2020/06/15
ISBN 978-1789142204
本文  Kosmos(宇宙)シリーズの一冊。
人類と火星との関係を太古の昔から、はるか未来の先まで考える知的好奇心を大いに刺激する本だ。火星は、はじめて発見されてから人々の脳裏に想像のイメージを焼き付けた。まわりの星座の間を血に染まった動物のように赤くさまよう謎の星、恐怖の星だ。古代バビロニア人にとって火星は戦争の神、農業の神だった。
アッシリアでは「火星が薄暗いときは幸運がくる。輝くと不幸がくる」という。この星が、占星術、天文学、宇宙科学の誕生と発展に与えた影響は想像以上に大きい。火星は地球から最も近いところにある惑星だ。イギリスの理論物理学者スティーヴン・ホーキング博士は、人類は生き延びていくためには今後200年から500年の間に地球に変わる住処を探さねばならないといった。地球は住めなくなるという。人類は地球を去る必要があるというのだ。そして火星を人が棲めるように改造するのは今のテクノロジーでは不可能だから、火星ではなく月にいけという。

火星ははたして人が住めるのか。
大気の95%は二酸化炭素、酸素はわずか0.13%、引力は地球の37%、平均気温はマイナス63度C。現在、アメリカのNASAをはじめMELiSSA(欧州の宇宙機関)は宇宙での野菜作成、人間の排出物のリサイクル技術、虫を利用した土壌、バクテリア対策、飲料水問題など人類が宇宙で生き延びるための研究を進めている。果たして、人類は本当に地球を捨てて火星に移住するのだろうか?

本書の構成は全9章。太古の昔、謎の赤い星との出会いから占星術、天文学の発生、天動説、地動説、宇宙ステーション、米ソの宇宙探索競争、未来の火星移住の可能性まで、永遠の時間軸のなかで火星と人類との関わりを考察するダイナミックな一冊だ。単に、科学的な目で火星や天体をみるのではなく、人類の生活との関係、未来の移住可能性までを考察するスケールの大きい一冊だ。イラストと写真もいい。火星をみる人間の心が見えるようだ。