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原題 The Perfect Predator: A Scientist’s Race to Save Her Husband from a Deadly Superbug: A Memoir
著者 Steffanie Strathdee、Thomas Patterson
分野 医学、微生物学、ノンフィクション
出版社 Hachette Books
出版日 2019/5/21
ISBN 978-0316418089
本文 伝染病学者のステファニー・ストラスディー博士は、心理学者で夫のトム・パターソン博士とエジプトで休暇を楽しんでいた。突如、トムは腹部の感染症で倒れてしまう。ステファニーはトムに抗生剤を投与するが、症状は悪化。エジプトから救急搬送されたドイツの病院でも治療は効かない。ついにトムは、夫妻の勤務地でもある、米国カリフォルニア大学サンディエゴ校にある世界有数の医療センターへ。そこで夫妻は、血液検査によって、現代医療がなぜ敗北したかを知る。Tomは世界で最も危険な抗生物質耐性菌と闘っていたのだ。

ステファニーは必死で古今の研究を探る。そこで彼女はファージセラピー(バクテリオファージを用いた細菌感染症の治療法)に出会う。これが本書の 「right virus(正義のウイルス)」別名「the perfect predator(完全なる捕食者)」というアイデアにつながった。ファージは、最悪レベルの致死性バクテリアさえ殺すことができる。しかし、ファージセラピーは、抗生物質による治療が主流となった100年前に忘れ去られていた。時間は尽きようとしている。ステファニーは世界中のファージ研究者たちに助けを求めた。手遅れになる前に、夫を救う治療法を探さなければ――FDAやテキサス農工大、極秘に研究を行う海軍生物医学研究所の研究者たちと協力し、忘れ去られた治療法を蘇らせる。スーパー耐性菌による世界的な危機に対して、科学には新しい強力な武器があることが、彼女の尽力によって明らかになったのだ。

ミステリー小説のようにスリリングに話が展開するため、読者は手に汗を握りながらも、ページをめくる手がとまらなくなるかもしれない。また、本書は愛の物語でもあり、手持ちの札が尽きた状況からの復活劇でもある。ぱっと見ると難しそうな本に見えるが、理系の知識がなくても読み物としても楽しめる一冊だ。