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原題 Mindful Thoughts for Walkers: Footnotes on the zen path
著者 Adam Ford
分野 アウトドア/自己啓発
出版社 Leaping Hare Press
出版日 2017/3/2
ISBN 978-1782404842
本文 ウォーキングを通じて、マインドフルネスを発達させるというのが本書の目的である。マインドフルネスがどういうものであり、なぜその状態が必要なのか、どうすればそれを発達させることができるのか、そこから何がみえてくるのかが25章を通して丁寧に語られる。

方法はいたって簡単だ。ウォーキングをする際に呼吸を整えて意識するだけで良いという点で読者の負担が少なく、読み物としても著者の知的センスが光る。

自分が何者であるか、どこに何のためにいるのかを知るために、まずは立ち止まり、ゆっくり呼吸する必要がある。ウォーキングをする際の呼吸法訓練は心身の訓練にとって大切である。著者はベトナム出身の禅僧ティク・ナット・ハンのどんな賑やかな場所でも呼吸を整えるマインドフルネス・ウォーキングの方法を紹介している(https://www.tnhjapan.org/)。マインドフルネスは仏教でいう八正道のうちの正念(身・受・心・法に注意を向けて、常に今現在の内外の状況に気づいた状態)である。

ウォーキングをしながら、耳を澄まし、もっと音を聞いてみよう。森の中の小川のせせらぎや鳥のさえずりが、これまであなたを包んできた悲しみを打ち破り、禅鐘の悟りの力であなたの魂を奮い立たせ、新しい命を示す。

ときには目的地を定めて歩くのも良い。自然そのものの持っている神聖な価値に気づくことができるからだ。また長距離徒歩旅行などは、他の作家の書いた本を読むことでも体験することができる。たとえばスティーブン・パワーズが南北戦争後のアメリカを東から西へと縦断したことを綴った『Afoot and Alone (孤独な徒歩)』は感動的だ。彼は旅をすることによって、自分を取り巻く人や環境、歴史を知り、自分が何者であるかに気づいた。それがマインドフルネスだ。

ウォーキングによって山頂を征服する必要はない。大切なのは今ある自分を意識することである。町や川、運河、森など、どんな場所をウォーキングしても瞑想は出来る。雨や太陽を感じることで気づくことも多く、特に雨の日の泥から人は土に還り、地球の一部であることを実感する。

随所に、キプリング、ディケンズ、フロスト、ワーズワースなどの詩や言葉が出てくるので、楽しんで読める。また最後にアメリカの自然を護るために生涯をささげたジョン・ミュアについても触れている。今も根強いミュアのファンが多く、彼の言葉の引用は興味を引くだろう。