ブックレビュー ブックレビュー

原題 The Most Important Year: Pre-Kindergarten and the Future of Our Children
著者 Suzanne Bouffard
分野 教育/社会問題
出版社 Avery
出版日 2017/9/5
ISBN 978-0399184949
本文 はっきりした記憶はないとしても、4歳頃の経験は人間の脳の発達にもっとも影響を与え、人生を大きく左右する。これは科学的研究によっても実証されているが、残念ながら、幼児教育の現場ではあまり理解が広がっていない。

アメリカではオバマ前大統領が、すべての子どもの保育園教育の機会を平等にするために2億5000万ドルを投じる方針を示した。保育園教育への投資は、社会の未来の豊かさに直結する。ある試算によると、4歳の子どものために投資した1ドルは、将来3ドルから8ドルの価値になって社会に還元されると言われている。低所得から中間所得層の子どもたちが保育園教育を受けることで、将来の犯罪率が下がり、社会に出て働き、納税することで国に貢献できるからだ。

重要なのは、保育園教育の質だ。本書では、2児の母でもある教育専門家の著者が、ボストン、ニュージャージー、ワシントンDCなどのさまざまな保育園の例を検証し、地域の状況や教育者の考えにより千差万別な教育内容を比較、保育園児がどうやって読み書きや計算、まわりとのコミュニケーションスキル、遊びを身につけるのかを分析し、効果的な保育園教育とは何かを探る。

世界各国で教育制度の違いこそあれ、4歳時点での教育の重要性は変わらない。日本では、都市部の保育園不足や保護者の「保活」、あるいは保育士の待遇改善など、大人目線での問題ばかりが注目されがちだ。しかし本書を読めば、本当に大事なのは園児たちが保育園でどんな教育を受けるかであり、子どものあるなしにかかわらず、社会全体が考えるべき問題であると気づくだろう。