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原題 Evicted: Poverty and Profit in the American City
著者 Matthew Desmond
分野 社会
出版社 Crown
出版日 2016/3/1
ISBN 978-0553447439
本文 2017年ピューリッツァー賞、2016年全米批評家協会賞の一般ノンフィクション部門、2017年PEN/ジョン・ケネス・ガルブレイス賞を受賞した、アメリカの貧困層の実態を描いた話題作。ビル・ゲイツやオバマ前大統領も、読んでよかった本として挙げている本書は、2008年5月から2009年12月にウィスコンシン州ミルウォーキーで退去を申し渡された8世帯を取材した記録である。

貧困層の多くでは、家賃が収入に占める割合が50%を超え、4人に1人は家賃と光熱費で収入の70%が消えるという。ミルウォーキーでは、大人と子ども合わせて年間1万6000人が強制退去させられている。1日に16家族が退去させられている計算だ。

退去には、法的手続きを経て、バッジと銃を携帯した裁判所の執行官と保安官によって行われる強制退去のほか、家主が賃借人に数百ドルを払って週末までに退去を求める方法があり、玄関のドアを破る場合もあるという。2009年から2011年には、賃借人の8人に1人が強制退去させられている。強制退去の執行だけを専門に行っている保安官もいるという。クリーブランド、カンザスシティ、シカゴも似たような状況で、貧困者の住宅問題もはや国の問題となりつつある。

本書では、肌の色や家族構成の異なる人々が取り上げられている。家主から立ち退きを告げられたものの、当然引っ越し費用もなく、窓の壊れた家に移り住むが、そこも危険を理由に退去を命じられ、麻薬の売人の巣窟のような地域の部屋を転々とする母親と子どもの経緯などは、まるで小説のようだ。

著者は、意に沿わない立ち退きが個人や家庭、ひいては地域社会をむしばみ、女性や子どもなどの弱者をいっそう困難におしやる社会の負の連鎖の仕組みを明らかにしている。