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原題 Vicious Games
著者 Rebecca Cassidy
ページ数 240
分野 ギャンブル、文化人類学、政治、世界経済、金融、社会問題
出版社 Pluto Press
出版日 2020/02/20
ISBN 9780745340388
本文 人類学・文化・社会シリーズ(Pluto Press出版)の一冊。ギャンブル産業の膨張は凄まじい。この産業が儲かれば儲かるほど、国に入る税金は増え、雇用も確保される。その中心は欧米諸国、特にイギリスだ。ロンドンの街の賭博屋では、何でもかんでも賭けの対象とする。本書はイギリス政府によるギャンブル産業の育成の流れを中心に、世界規模で急拡大したギャンブル産業の秘密を解明する。イギリスでは1980年代から1990年代にかけて金融システムの自由化にあわせてギャンブル産業の規制が緩和された。最大の契機はサッチャー政権による1986年の金融ビッグ・バンだ。ギャンブルが、日陰的存在からレジャー産業の表舞台に進出していく。
 スペイン南海岸の半島に、ジブラルタルの地がある。ここはイギリスの海外領土だ。多くの世界一流ギャンブル企業がここに本拠地を置く。ギャンブル産業のメッカ・巣窟だ。税金が安く、ジブラルタル海峡は、世界中の豪華クルーズ船が通行する。IT技術の発達がギャンブル産業の急成長に拍車をかける。膨大な量の「賭けのデータ」を瞬時に処理できるし、賭けの申込みも、世界中からスマホで、いとも簡単にできるのである。2014年のワールドカップ(サッカー)では、ギャンブル企業(胴元)は、1試合ごとに、コーナーキックの回数やイエローカードの枚数まで賭けの対象とするのである。金額は、なんと10億ポンド(1,500億円)以上だ。
著者の調査手法はフィールド・ワークが中心で、この産業に携わる人々(政府関係者からギャンブル企業の経営者、街の賭博屋の店長から、ギャンブル中毒に陥った人々)への徹底したヒアリングだ。関係者の本音が聞こえて実に面白い。ギャンブル産業の変身は驚異的だ。読者の好奇心を大いに刺激する一冊だ。